外科的切除はわずか3割
日本赤十字社医療センターの外科で研修していた頃、肝細胞癌が見つかった時にはすでに外科的切除の適応外であった患者さんに何度か遭遇しました。実際、肝細胞癌初発患者さんの3割しか外科的切除の適応にならず、それ以外の7割は内科的治療を受けることになります。これは発見時にはすでにがんが進行していたため手術では取りきれない、また肝細胞癌の多くは肝硬変の状態に生じてくることから、手術で逆に肝臓に負担がかかり寿命を縮めることになってしまうからです。
肝臓内科を志し…
研修終了後、徳島大学病院消化器内科へ入局し、外科で手術できない肝細胞癌の患者さんを治療したいとの思いで肝臓内科を志しました。肝臓内科での肝細胞癌治療では局所療法と経カテーテル治療の2つに分けられます。局所治療ではエタノール注入療法(PEIT)、マイクロ波凝固療法(PMCT)、ラジオ波焼灼療法(RFA)があります。また経カテーテル治療には肝動脈塞栓術(TAE)、肝動注化学療法(TAI)があります。これらの治療を勉強するにつれ、当時開発されて間もないラジオ波焼灼療法(RFA)が外科的切除に匹敵する治療法だということを知りました。これは外科的切除の適応にならない患者さんだけが対象ではなく、お腹を切らなくても外科的手術と同じ効果が得られるという画期的な治療であることをあらわしています。このラジオ波焼灼療法(RFA)の世界では東京大学医学部付属病院消化器内科の椎名秀一朗先生が世界的に名医とされる先生であり、その椎名先生の教えを受けるべく東京大学への国内留学をさせていただく機会を与えていただきました。
ラジオ波焼灼療法とは
ラジオ波焼灼療法(RFA)いうものは超音波検査装置を用いて肝細胞癌を見つけ出し、がんに電極針という細い針を刺して電流を流し針の先端に熱を発生させてがんを焼いてしまう方法です。しかし肝臓の周囲には肺や大腸、胆嚢などほかの臓器が周りを取り囲んでいて、簡単にがんを見つけ出せない、場合によってはがんを見つけてもほかの臓器に針が刺さってしまう危険がありがんに針を刺すことができないということが多くあります。つまり通常の技術ではラジオ波焼灼療法(RFA)ができないという判断で外科的切除になってしまう、あるいは肝動脈塞栓術(TAE)という他の治療で代用されてしまうことになってしまいます。この難点を改善し、肝臓のどこにがんができてもラジオ波焼灼療法(RFA)の治療ができるというのが椎名先生のすごいところです。人工的に胸水を作成する方法、腹水を作成する方法などを駆使し障害をクリアするといった多くのテクニックを開発し対応されていました。初めて見たときにはそんなことができるのかと感嘆したものです。椎名先生の厳しい指導でその治療技術を伝授していただき、今では自由に使いこなせるようになりました。
肝動注化学療法
また進行肝癌の場合には肝動注化学療法が選択されることがあります。とくに門脈という血管内にがんが入り込んだ場合(門脈腫瘍栓)、外科でも内科でも有効な治療法がないというのが常識となっています。しかし、このような患者さんにリザーバーカテーテルという管を肝臓の血管に挿入し化学療法を行う方法があります。抗がん剤として5FUという薬剤、それにインターフェロンを併用するFAITという治療がその代表です。これは大阪大学の外科で発案された治療法で、当初は肝機能の悪くてもできる、また外来でもできる治療として考えられたようです。その後この治療でがんが良くなる患者さんが増え治療が効果的であることがわかりました。この治療をさらに広めて多くの治療実績を持っているのが杏雲堂病院の小尾俊太郎先生です。私は小尾先生のもとで門脈腫瘍栓を伴う進行肝癌の治療を1年間勉強させていただきました。小尾先生にリザーバーカテーテルの挿入・留置方法、治療の仕方、副作用の対応などあらゆる方法を指導いただきました。
徳島大学病院での治療
内科的治療の2本柱であるラジオ波焼灼療法(RFA)と経カテーテル治療というそれぞれの世界的に有名な先生に伝授していただいた技術を持って、2005年から徳島大学病院消化器内科で治療を始めました。当時徳島大学病院消化器内科はまだこれらの治療では無名でしたが、徐々に治療実績も増え、2010年にはラジオ波焼灼療法(RFA)は160人の患者さんに行い、全国でも有数の治療数を誇るようになりました。当院ではがんができた場所が悪く、ほかの病院ではラジオ波焼灼療法(RFA)ができないという患者さんも多く治療しています。また進行肝癌でほかの病院で治療できないという患者さんもFAITで治療しています。
確固たる治療技術
2006年に続いて2010年も徳島県は肝疾患死亡率全国ワースト1位です。肝細胞癌の早期発見、早期治療は重要ですが、それに対する治療法の選択も重要です。時には内科的治療に固執せず外科的切除を選択する目利きも必要です。私は肝臓専門医であり外科認定医、総合内科専門医という異なる角度から患者さんを診ることができます。また治療技術は当然もっとも重要です。上述のとおり、世界的権威の先生から引き継いだ確固たる技術をみなさんに提供することができるものと確信しております。